佐倉市では都市計画や産業振興計画で、観光振興をまちづくりの重要テーマに取り上げている事については以前にも触れた。
今回は別の角度、特に旧城下町地域を中心とする町並みや景観と、観光振興について考えてみる事にする。
旧城下町地域の歴史的建造物や史跡、そして印旛沼とその周辺などの豊かな景観を観光資源として、そこに創造的なアイデアを付加し、イベント開催時だけでなく年間を通じて多くの人を佐倉に呼び寄せることができれば、地域経済にも寄与し地域が活性化する事につながる事は誰もが考える事であろう。
しかし又、掛け声だけの表面的な観光振興では、決してまちのイメージ向上にもつながらず、人を呼び寄せる魅力も生まれない事についても理解している。
このように観光振興に関しては誰もが十分認識している事であるが、では、「どのようなまちづくりの内容か」、「誰がどのような役割で進めるのか」、「予算は」・・・という具体的な話になるとなかなか前に進まないのが現実ではないだろうか。
今回は、「佐倉を訪ねて良かった、期待以上に魅力のある町だった、友達や家族ともう一度ゆっくり訪ねてみたい」、そうした気持ちを来訪者に抱かせる事ができる佐倉特有の≪地旅≫づくりを、いろんな主体の連携で進めることを提案しておきたい。
私たちの住んでいる佐倉、特に旧城下町地域には、近世には10万石前後の大名城下町として栄えた歴史があり、今もあちこちに江戸時代や明治時代の面影をしのぶ事が出来る風景や建造物がある。
それぞれには数々のドラマがあり、人を引き付ける魅力や雰囲気を醸す場所としての条件を備えている。また、印旛沼やそこに流れ込む中小の河川、その周辺には恵まれた水と緑が豊かな景観を提供している。
更に、旧城下町の外周に展開する田園地帯に足を延ばすと、そこには牧歌的な風景や里山が広がっており、こうした街並みや建造物、そして景観は、今流行の《地旅》の要素を十分備えていると思っている。
最近はどこの自治体も財政難で、その影響は博物館や美術館の運営にも及び、閉館したり休館するところも増えているといわれる。今後、文化財の保護や施設は、『選択と集中』を一つの選択肢として、どのようにコストせーブを図るかが大きな課題になると指摘する人もいる。
そこで、こうした分野に市民の力をどう生かすかが大きな鍵になり、 行政とこの分野に関心を持つ市民活動が連携して、将来に向けた取り組みを開始する事が期待されている。
地域社会に貢献している市民や団体、地域資源の保全に取り組んでいる市民や団体、地域に密着したテーマで活動している市民や団体、こうした人たちが交流型イベントや行事を行って、来訪者に楽しんでもらうのが地旅の基本といえる。
来訪者を増やすまちの魅力をどのように創造するのか。どのようなまちづくりを目指すのか。次に二つの都市を紹介しておきます。
【事例1】
滋賀県長浜市では、旧城下町一帯を『博物館都市』と位置づけ、旧長浜城跡や旧
城下町地域を一体にして、総合的にプロデュースする取り組みを行っている。
まちづくり一番の特徴は、市民がまちづくりの主体になり積極的に参加している事で、そうした市民活動の事務局的機能を果たしているのが『まちづくり役場』というNPO法人で、市民や諸団体の連携やネットワークの要として大きな役割を果たしている。
【事例2】
四国松山市では、まち全体を『屋根のない博物館』として、「坂の上の雲ミュージアム」を核施設にした、総合的なまちづくりを推進しているのが特徴である。
坂の上の雲ミュージアムの内部は、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』に関連して、明治時代に関する展示物をはじめ、まちづくりや地域資源に関する情報発信の拠点になっている。
また、まち全体を見下ろす「勝山」山頂には、復元された伊予松山城天主が威容を誇り、城域全体は本丸広場とともに多くの櫓門や建造物、大規模な石垣等が復元されて、魅力ある観光ポイントになっている。
この二つの都市はどちらも旧城下町として栄えた歴史を持ち、地域資源を面として生かすやり方を採用して成功しており、佐倉なども参考にできる取り組みではないかと思っている。
筆者もこのような考え方が佐倉のまちづくりに生かされる事を願っている一人である。なぜならば、佐倉には歴史・文化が育まれ、そのような観光資源が、顕在しているものや潜在的なものを含めると豊富に存在しているからである。
〆地旅(じたび)
新しい旅のスタイルで、『地域を楽しんでいる人が、地域を楽しみにやってくる人のために企画・運営する旅』といわれている。
≪2013年3月 福山≫